踊り子の魔女 第七十七話:今年もライムがやってきた
あれから、私はとにかく大量の魔力を作り出すために踊って、コントロールして、踊って、コントロールした。
あれから毎日、授業のある日も、休みの日も。毎日少しの時間でも先輩に付き合ってもらって練習を重ねた。
「最近は、体も慣れたのかだいぶ楽に魔力を使えるようになったし、気のせいかもしれないけど踊らなくても前より使わせてもらえる量が増えた気がする。」
『気のせいじゃない。マリー自体が自然界の魔力と近い存在になれてるの。こんなに早く成し遂げるなんて本当にやるって決めたらなんでも早い。』
「そ、そうかな。ただ無我夢中でやってるだけだよ。」
「いやあ、私も驚いたよ。こんなに早くできるものなのか疑問だったけど、シェシェ君の話から推測するに凄いことみたいだね。」
「とにかく、私が魔法陣を展開できないことには始まらないので。それだけ考えて取り組んだって感じで。でも、形になってよかった。」
「あとは、マリー君とラキア君の魔法陣を上手く合わせるだけだ。マリー君に相手に合わせる余裕はないだろうから、ラキア君ここは君の頑張りどころだ。」
「おうよ!任せろ!はなからそのつもりだぜ。」
ラキアの頼もしい返事に自然と笑みがこぼれた。
「ありがとうラキア頼りにしてる。」
「どーんと任せろよ。」
体がほんのり冷え、吐く息が時々白くなり始め季節は寒さを帯びるライムの時期になってきた。
当初の予定通り今年の終わり、年末の休みに計画通り実行できそうだ。
汗をかいてもしばらくしたらスッと引いてしまう。そんな季節。
もうすぐだ。予定通りにいけば今年の年末計画実行。
「もう一年たったんだな。…来年はさいごかぁ。」
いつになく静かなトーンでラキアが呟く。
「そうだね。」
思っていた十倍時間が経つのが早かった。学園での生活はとっても楽しくてどうしようもなくキラキラと輝く日々だった。
「そうか、君たちとはもうすぐお別れか。寂しくなるねぇ。」
先輩がいつになく、静かに呟く。
「そうか。先輩は先輩だもんな、今年で卒業だよなぁ。あーあ楽しい時間ってのはすぐに無くなっちまうもんなんだな。」
その通りだ。
空を見上げながらラキアの言葉を何度も頭の中で繰りかえす。楽しい時間はすぐに無くなってしまう。だからこそ今という時間を精一杯使わないと。
「よし!」
上を向いたままスッと立ち上がり、両手を握って全身に力を入れ自分に活を入れる。
「計画通り進めるためにもっともーっと頑張るぞ!」
「お!いいじゃねえか!その意気だぜ。このまま突き進んでぜってえ成功させようぜ!」
「もちろん!」
「若者たちよ元気があって素晴らしい。」
その日はそのまま魔法陣の練習をして。何とか最低限形を保つことはできるようになった。
残り一か月いっぱいいっぱい頑張るぞ!
***
そして、雪の降らないイーリヤ帝国でも本格的に息が白く、肌寒い日が続く時期になり、スイーズ湖浄化作戦はいよいよ本番を迎えようとしていた。
「それで、今更なんだけど。みんな今年はすぐに実家に帰らないでそのままスイーズ湖に行くって私は思ってるんだけど、この認識であってる?」
ルルのその一言で、自分が魔法陣以外に何も考えていなかったことを思い知った。
「た、確かに、その辺のこと何も考えてなかったし。だから、家にも何も連絡を入れてない。」
「やっぱり確認してよかった。たぶんマリーと、あとラキア。あんたたち二人は何も考えてないんじゃないかと思って、ここで確認しておこうと思ったのよ。」
「ありがとうルル。」
しっかりした友達をもって本当によかったと、胸をなでおろす。
「いや、別に俺は何も考えねえことねえけど。家近いからな、どうにでもなるって思ってたわ。だから特になんも考えてねえ。」
「考えてないのかよ。」
ゼスに突っ込まれ、ラキアはてへっと頭の上に手を置く。
「セドルは?一度家に帰りたい?もしそうなら日程を調整しよう。あくまで年末休暇に作戦を決行しようとしてただけで、具体的な日程は何もないから。」
「僕はどっちでもいいよ。良くも悪くもいえばすぐに迎えに来てくれるから、マリーに合わせるよ。」
「そっか。じゃあトーカは?」
「私はそもそも私の実家は、一カ月で帰るには遠いから、去年も特に帰ってない。」
「え!じゃあ、去年は寮から遊びに来てたの?」
「そうそう。だからみんなに合わせるってか、この感じみんなそのまま学校から行くでいいんじゃね?」
「いや、俺にも聞いてくれよ。」
「あ。ごめん。じゃあ、どうする?ゼスは一旦家帰りたい?」
「いや、そのまま行くでいい。」
「は。じゃあ聞けとか言うなよ、めんどくせえな。」
「いやそういう事じゃなくて。」
「無駄なラリーが生まれたわ。ってことでマリー全員学校からそのままでいいみたいだから。あんたがよかったら、家に連絡しな。」
「うん、ありがとうそうするね。」
日程に関してはあっさりと決まってしまった。
「もう少し優しくしてくれよ。」
ぶつぶつとゼスが何かを呟いているが、そのまま移動の話に移っていく。
「当然スイーズ湖までは、前回同様列車で行くとして。日帰りってわけにはいかないから。泊まる場所を確保したいわよね。」
「早くしないと宿なんてすぐなくなるんじゃねえか。そもそも宿なんてあんのかあの近くに。」
「まあ、確かに一度しっかり調べてみないとね。」
なんやかんやで、ルルとトーカが宿の手配はしておいてくれることになり、当日の流れをざっとみんなで確認することになった。
「流れといっても、朝起きてからスイーズ湖に移動して、その後魔法陣の展開を始めるって感じだよねマリー?マリーには焦らずゆっくり時間を使ってほしいから、早めにいった方がいいと思うんだ。」
「セドルのいう通り、魔法陣の展開から、ラキアと合わせるのに時間がかかるから、少なくとも午前中には作業に取り掛かりたい。」
「わかったわ。じゃあ朝ご飯を食べたらすぐに移動しましょう。いいわねみんな。」
みんな首を縦に振り同意してくれる。
「よしっ!じゃあ粗方決まったし。夕飯食いに行こうぜ!腹減ったー。」
ラキアの言う通り、私もかなりお腹がすいている。
「じゃあ早くいきましょう。大人数で座れる席も限られてるし、このままご飯食べながら予定については細かく詰めればいいしね。」
そう言って、ルルが立ち上がる。
私も、みんなもルルに続いて立ち上がり、食堂の方面の出口に向かって歩き出した。
楽しく浄化作戦の話し合いをしている私は、
このとき
己の身にあんな事が起こることなど露ほども考えていなかったのだ。
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