踊り子の魔女 第七十四話:個々の時間
「せっかく頼ってくれたんだから、力になりたいよな。」
誰もいない中に声だけが落ちる。
「とは言っても何ができるかなー。」
マリーからスイーズ湖の浄化の話を聞いたのは、今日の午前中だ。
魔獣の残り香なんて今じゃおとぎ話の中の話だ。確かに世界各地にまだあるとは聞いたことはあったが、こんなに身近にあったなんて。
「やっぱり相手が抵抗してくるだろうから、それを避けるのってのが俺にできることだよな。」
握った拳を見つめながらブツブツと独り言をつぶやいていると、後ろからものすごい衝撃を受けた。
「おいおい!どうしたんだよ下向いて暗いなー。」
ラキアが飛びかかるように肩を組んできたせいだ。
「考え事してたんだよ。あっぶないなぁ、まじでもう少し落ち着けよ。」
「辛気臭い顔したともが下を向いていたら、驚かすっていうのが俺の心情なのさ。」
「そこは励ますと言ってくれ。」
「まあまあまあ。で、何悩んでたんだ?悩みを言ってみなさい。」
「だから悩んでねえよ。考え事してたんだよ。ほら、今日のマリーの浄化の話だよ。」
「ああ〜あれか。あれな。あれあれ。」
「…本当にわかってんのか??」
「わかってるよ、あれだろ。スイーズ湖の浄化。俺何しよっかなー。なー何がいいと思う?」
「お前が悩むのかよ。」
「まあまあかたいこと言うなよ。で、何がいいかな?」
「……まじで、マイペースだな。」
「褒めんなよ。やっぱ俺は青の魔術師だし、何かかっけえもんでも作るか!」
「見た目より中身だろ。」
「やっぱこうババっと出て、キラッと尖らせて、かっこいいのがいいよな。」
「何ができるんだよ。」
「しんね。後で考える。」
「見た目はそれで決まりなのかよ。」
ラキアと話してたら、だんだん頭が整理されてきてもう一度一から何ができるかを考える。
「ていうかそもそもお前も協力する気あったんだな。」
「会ったりまえだろ!あんな面白そうな話のらねえわけねえだろ。古代の術なんだろワクワクするぜ!」
「だよなー。」
正直術に興味があるかといわれるとそうでもない。ただ友達が困っていると相談してきたから力になりたいと単純にそう思っただけだった。
「ま、お前はあれだろ別に興味ねえけど友達の頼みを聞いてやりてえんだろ。」
「まあな。」
長い付き合い。考えていることはお互い大体わかってる。
「まあ、ゆっくり考えたらいいだろまだ時間はあるし。年末の休みにみんなで行くんだからそれまでに何をしたいかおのずと答えは出るだろ。お前まじめだし。」
「だといいけどな。」
「というわけで、今からマリーに本を見せてもらいに行くのだが、迷える子羊君も一緒に行くかね?」
「そうだな。見れば何か新しいことが思いつくかもしれないしな。」
「そういうと思ったぜ。」
そのままラキアとスイーズ湖の話、本の話、マリーの話をしながらマリーの部屋を訪ねた。
***
「ねえ、あんたはどうするの?当然スイーズ湖の浄化。」
「当然だろ、マリーが頑張るって言ってるんだから僕は僕にできる最大限のサポートをするよ。」
「相変わらずけなげね。涙出ちゃう。」
「そのまますべての水分を出して干からびたらどうだい?最近体重気にしてただろ。ドレスが入らないって。」
「ドレスが入らないのは筋肉のせい!体重じゃない!まあ、私は、セドルと違ってマリーのことを抱っこしたりおんぶしたりしてるから、筋力がないと大変なの。」
「ふーん。よかったね筋力っていう取り柄があって、そうじゃなかったら君の頭じゃマリーと友達なんてとてもじゃないけどできないからね。」
……。
視線と視線がぶつかり、まるで火花が散り空気がピリピリとしてくる。
『やめなさいよ。暑苦しい。大体マリーは私のものなんだから、あなたたち程度が張り合うためにマリーを引き合いに出さないで。』
「そうはいってもシェシェ、こんながさつな女はやめておいた方がいいよ。マリーみたいな素直な子によくない影響を与えかねない。」
「何言ってんの、あんたみたいな腹黒で本心を言わないような信用ならない男。マリーには絶対よくないって。」
「腹黒だなんて心外だな、僕は慎重で冷静な性格なだけだよ?」
……。
また空気がひりひりし始める。
『あーハイハイ。わかったわかった。どっちもダメね。」
「「違う!」」
二人の声が重なり思っていたよりも大きな音となり、思わずシェシェが本から視線をはなし顔を上げ、けげんな顔で二人を見る。
『…うるさい。ここがどこかわかってるの?』
「…。」
「…。」
『そのまま一生、その口が動かないことを望みたいわ。』
呆れたように言い捨てると、シェシェは足元の本へ視線を戻した。
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
『……。なに。』
「私って、マリーにとって良くないのかしら?」
「僕は、マリーにふさわしい男なのかな。」
先ほどまでの勢いなんて嘘のように、突然シュンとした二人を見てシェシェが本当に嫌そうな顔をする。
『ねえ、本当になんなのよ。マリーが好きなのはわかったから。もうほんとなんで私に絡んでくるのよ。』
「だってマリーとずっと一緒にいるじゃん。」
「君はマリーと四六時中一緒にいるじゃないか。」
「だから、ずるいなーって。」
「どうやったらマリーに振り向いてもらえるのか学ぼうかと思って。」
『は……。』
開いた口がふさがらない。マリーは人に好かれやすいけど、だけど、こんな、厄介なものを二つも引き寄せて。
『はぁぁー。』
無意識に額に手を当てて下を向く。
『じゃあ何?私に宣戦布告をしにきてるってこと?』
二人に緊張が走り、体に力が入った。
シェシェの肝の座った、鋭い視線を向けられ身構えたのだ。
『……。まあ、いいわよ。一年と少しあなたたちを見てきたけど、私に挑むくらいは許してあげる。』
薄く妖艶な笑みを浮かべながら、二人に挑戦を許すシェシェ。
「いえ、結構です。怖いです。」
「ふっ。だから君はその程度なんだ。僕は必ずマリーを振り向かせて見せる。」
こうして二人の戦いは本格的に始まったのだ。
『で、あなたいつまでそこに突っ立っているの?本は?あったの?』
三人のやり取りがあまりにも面白すぎて、しばらく成り行きを見守りたくて気配をできるだけ消していたけど、やっぱり気づかれてたか。
「後輩たちが魔法史を学びたいといってきたのだから張り切って本を探そうと思って戻ってきたら、とんでもなく面白い展開になっていて声をかけるタイミングを逃したのだよ。」
「いつから…。」
「そこに……。」
「水分出して、干からびて…くらいからかな。」
「「ほぼ全部。」」
『やっぱり、一生黙ってればよかったんじゃない?…まあいいわ、本を貸して。』
「はいはいどうぞー。」
おすすめの歴史書を机に並べ、そのまま戦いの話は終わりスイーズ湖の浄化に使えそうな情報がないかを四人で探し始めた。
***
「はー。」
中庭に一人。一人になったのは久しぶりだ。
「つまらんな。」
最近生徒会の仕事が忙しくて、みんなと遊べていないのだ。
「なんで生徒会なんかやっちまったのか。」
おしとやかな自分も好きだが、好きだったのだが。最近はしっくりこない。
七人でいるときは、素でいられる。自分の外見に合わせて演じてきた自分も好きだったのに、今は素の自分のほうが好きになっている。
「やめるとしたら、いつかな。」
スッと顔を上げて空を見上げながらぼーっと考える。
「卒業までかなぁ。」
正直どっちでもいいことだが、だらだらと同じことをずっと考えている。それもこれもみんなと遊べていないからだ。
「よし!行くか!」
生徒会の仕事がひと段落ついて、今日はゆっくりしようかと思っていたが、本当につまらない数日を過ごした反動で、とても騒ぎたい気分になっている。
「スイーズ湖の話をもっと詳しく聞きたいし。とにかく誰でもいいから探して捕まえるか。」
立ち上がり、両手を腰に当てて、よし!とつぶやき、七人を探しに足を踏み出した。
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