踊り子の魔女 第七十三話:これが終わったら

バタンッ!

勢いよく扉を閉めると、カバンを放り出して本の続きを読み始める。

昨日見つけたかすかな希望を胸に、魔法陣以外の浄化の方法も読み込む。何せとんでもなく分厚くいつ読み終わるのか検討もつかない。

皆に手伝ってもらおうと思ったはいいが、具体的に何をしてもらえばいいのかも思いついていない状況だ。

でも、この挑戦したいと思う気持ちを抑えることはできない。

本を読んでいるだけで心拍数が上がっているのではないかと錯覚するほど、私は今、この、フルクサーという存在に惹かれているのだ。

私も、精霊士なら、フルクサーと呼ばれていた時代の精霊士になれる可能性があるはずだと、そう信じて突き進む。今はとにかく本に書いてある知識をしっかり吸収して、スイーズ湖の負の力を浄化したい。

「挑戦しないなんて、ありえない。私の人生は精霊に変えてもらった。だから私も精霊達のためにできることをやりたい。」

独り言をブツブツと呟きながら本を読み進める。

『マリー。……本当にやるの?』

「え?」

夜も更けてきた頃、突然シェシェが話しかけてきた。

「どうしたの?……やりたいと私は思ってるけど。何か心配事?」

『心配、というより胸騒ぎ?のようなものがして…マリーのやろうとしていることは、どの精霊が聞いてもとても感謝することだと思う。でも、どうしても嫌な予感がしてならないの。大きな力を使うということは、逆に言えば失敗した時の反動が大きいもの…。』

「そうだよね。シェシェも私も全く知識がない事だもんね。私も、正直挑戦したい気持ちと、怖い気持ちの両方があって、でもこの恐怖心を乗り越えてでも私はせっかく手にしたこの知識とチャンスを活かしたいの。」

私は、私の心の中にある強い精霊に対する気持ちを語った。

「進みたい道ができたって、前に言ったでしょ?私はね、精霊と人間が昔みたいにもっと近い距離にお互いを感じられる世界を蘇らせたいというか、新たに作りたいというか、そういう願いがあるの。この夢は私の人生をかけて実現させたい。私の代で無理でも未来に繋げたい。……いざ、真面目に話すと途方もなく感じるし、ちょっと恥ずかしいね。」

『……そんな事ない。そんなに、真剣に考えていたなんて知らなかった。……ありがとうマリー。』

シェシェが驚くほど柔らかな笑顔を浮かべて私にお礼をしてきて、私は一瞬黙り込んでしまった。

「……。」

『……。』

「ありがとう…真剣に受け止めてくれて嬉しい。」

沈黙が流れる中、何とか絞り出したセリフはあまりにも抑揚のないものとして静かな空気の中へ溶けていった。

『棒読みね。』

「ごめん、シェシェってそんな風に笑えるんだと思ってビックリしすぎた。」

『…だいぶ失礼な表現ね。』

「いや、うん。本当に驚いた。」

『訂正しないのね。』

「驚いたよ、ほんとに。」

『これはだめね。』

こんなに長く時を過ごしているのに。あそこまで柔らかい表情のシェシェを見たことがなかった。そのことに驚きと同時に切なさが込み上げた。

普段から冷静沈着で、でも時々笑顔も見せていたのに。あの笑顔をどうして今まで見られなかったのか。これは、時々感じるなんとも言えない距離のせいなのか。悶々とした何かが込み上げるなか、私の思考を遮ってシェシェが話し始める。

『正直さっきの話を聞いたからって手放しで浄化を許可することはできない。だから、前にも言ったけど絶対に無理はしないこと。あと、私がとめたら何があってもその場で中断。これも追加で約束して。』

その場で背筋を伸ばすほど真剣な眼差しで私を見つめるシェシェの目から、私は視線をそらすことなく頷く。

「わかった。必ず約束は守る。シェシェの事は絶対に悲しませたくないからね。」

シェシェも静かに頷き、私の手元へ近づき本を覗き込む。

『今日からは私も一緒に読み込む。マリーひとりに危険なことを背負わせないから。』

「ありがとう。」

胸がぎゅっと熱くなる。

シェシェの私に対する思いは確かなものだと確信できる。

だから、これが終わったら聞いてみよう。シェシェが一体何を抱えているのか。

私の夢を一緒に見てくれるシェシェに、私も一緒に背負うと伝えよう。たとえどんなことでも。

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