踊り子の魔女 第六十九話:妖族の先輩
あれから五日経った。
でもいまだにどういう風に研究を進めたらいいのかがぴんと来てない。
悩みに悩んで私は今学校の中をウロウロしている。シェシェもつれずに一人っきり。
久しぶりに本当に一人で行動したことで、久しぶりにしっかりと内省ができている…が、アイデアは全く思いつかない。
「どうしたもんかなー。」
すっとその場に立ち止まり、なんとなく上を見上げる。円形の吹き抜けの先には、大きなシャンデリアがかかっていて、天井はとても遠い。
ぼーっとしながらシャンデリアをただ眺めていると、ふと一つの部屋、というか扉に意識を取られた。
「な、にあれ。」
ものすごい数の紙が貼りつけられている扉がそこにはあった。
「ここって何があるんだっけ。」
この建物がそもそも何だったかを思い出すために、ほかの扉に目を向けると部活の名前が書いてあった。
「あ。ここ部室の棟か。」
じゃあ行ってみるか。
と、思った時にはすでに足が動いていた。なんだかわからないけどものすごくあの部屋が気になったのだ。
二階に上がり、扉の前に立つ。一呼吸、肩を上下に動かして、呼吸を整える。
この部室は。
【歴史研究会】
「歴史研究会。歴史の研究してるのかな。」
ぽそっとつぶやく。
「そうだよ。入部希望者?」
!!
びっくりして心臓が飛び出るかと思った。
パッと左を向いて声の主を視界に収める。
「………。」
「えーっと、入部希望なのかな?」
「いえ、その、下から見てたら、すっごい量の紙が貼りつけられてて。目に入ったので何の部活なのか気になって、見に来ただけなんです。」
話がまとまらないまま口だけが動いてるみたいなつたない説明になってしまった。
「そっか。何にせよ興味持ってくれたってことだよね。寄っていきなよ時間あったら。」
そういって、ツノの生えたその人は、私の前にスッと入ってドアを開いた。
ツノ???
視界に入った頭から生えてるツノを見て、それを凝視した。
「?どうする?入ってみる?」
「は、はい。」
慌てて私は部室に入った。
***
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
湯気の出ているお茶が私の前に置かれて、ふわっといい香りがする。
お茶を作ってもらっている間も、私の視線はツノを追っていた。
「で、入ってもらったのはいいけど、正直何か話したいことがあるとかそういうんじゃないんだよね。あ、私の名前は湯葉蒔絵《ゆばまきえ》!今年三年生の、黒魔術師。よろしく!」
「三年生ってことは先輩ですね。私の名前はマリーです。今年二年生の精霊師です。」
とりあえず同じように自己紹介をして、二人で一口お茶を口に入れる。
「で、うちの部室が目についたって言ってたけど、そもそもここで何してたの?ほかの部活に入ってるの?」
「いえ……、二年生になって始まった自由研究で、具体的に何をどう研究したらいいのか悩んで、悩みながら学校の中をウロウロしてたんです。」
「なるほど。で、研究の何に悩んでるのかな?それともまだ題材から決まってないのかな?」
「なんとなーくやりたいことは決まっているんですけど、具体的に何をするべきなのか思いつかなくて。期間も二年なので、あまり大きくしすぎてもいけないし。という感じで悩んでたんです。」
「そうかそうか、そういうことね。もしよかったらその何となくの研究対象を聞かせてくれないかな。」
「精霊と人間の関係性というか、精霊についてというか。この二つの種族の成り立ちというか……。というようなことを研究してみたいんですけど。」
「ふむ。そういうことか。ふっふっふ。そういうことなら、ぜひうちの部活に入らないかね。精霊と人間とのかかわりや、精霊についてを知るなら、やはり歴史を知るのがいいと思うんだ。うん。」
「なるほど。」
確かに。成り立ちを知るには歴史を知る必要がある。関係性も一日二日でできているものではないから、長い時間の知識が必要だ。
「歴史というのはどんなものにも存在する。何を知るにもルーツを知るというのは大事なことだよ。精霊の歴史を知れば精霊たちがどんな生き方をしてきたのか知れる。そのうえで同人間とかかわってきたのかを精霊側の視点からも見られるかもしれない。」
「なんだか、今とってもすっきりしました。確かに湯葉先輩のおっしゃる通り、ルーツを知るっていうのは今の私には大事だと思いました。」
今一度、精霊について基本的なところから学びなおそう。
「と、なんだか無理に勧誘してるみたいになったけど、別に無理に入ることないからね。でもこのアドバイスはぜひ聞いてくれると嬉しいな。」
「入ります!」
「そっか、入るのか。って何をするのか何の説明もしてないけどいいのかい?」
「確かにそうですね。じゃあ、あのこの部について教えてください。」
「よくぞ聞いてくれた!この部活はズバリ【歴史研究会】その名の通り歴史について、いろいろと知見を広げる部活だ。」
「はい。」
「歴史なら、どんな歴史について調べてもいいし、本を読んでもいいし。好きにしてもらっていいよ。」
「はい。」
「以上です。」
「はい。」
部屋が静かになる。
何とも言えない空気感。それだけ?
「あの、それだけですか。何か部全体での目標みたいなものはないんですか。」
「ないね。」
「研究会ってことは何かしら、読むとか調べる以外に、研究したりとかは?」
「しないよ。別に。好きに歴史に触れてくれたらそれでいいよ。研究会ってつけといたらそれっぽいでしょ。」
「それっぽい。」
「それっぽい。と、当時の部長がそういっていたと、先輩たちが言っていた。」
「そ、そうなんですね。」
「だから、マリー君も好きに精霊についての歴史について調べる時間と場所を提供されていると思ってくれていいのだよ。」
なんか、面白い部活だな。このまま勢いで自分の直感を信じて入ってしまおうと思った。
「じゃあ、入ります。」
「よし!じゃあ今日から君は歴史研究会の一員だ。私のことはまきえって呼んでくれたらいいから。改めてよろしくマリー君。」
「はい。よろしくお願いします。」
一通り話が終わり、また一口お茶を口に含む。
ふっと、一息入れると、またあのツノが私の意識を奪う。……気になる。
じっと見つめていたからだろう。先輩が私の視線に気づいてくれた。
「ああ、これね?この大陸の人にとっては珍しいよね。私は妖族なんだ。」
妖族。初めて聞くし初めて目にする種族だ。
「ここからずっと遠くの大陸には多いんだよ。私もそこから来たんだ。」
先輩は、お茶をゆっくり優雅に飲みながら話を続けてくれる。
「さっき黒魔術師って名乗ったけど、厳密には妖術を使うから、呪術も使えるんだ。」
「呪術?ですか?」
「妖族は妖術を使用するんだ。」
「そうなんですね。」
「妖術が何か聞かれても、私も正直よくわからないから、それについては先生に聞いた方がいいと思う。」
「そうなんですね。なんだか、初めての情報がいっぱいで、今はいったん大丈夫です。」
正直に今の自分の状態を伝えて、一旦先輩からの新しい知識を止めてもらった。
「ははは、そうだよね初めてのものに対して、いきなり付属の情報をたくさん出されても追いつけないよね。安心したまえ、私もこれ以上は説明できないから。」
「ありがとうございます。」
「部屋の前であった時から、このツノにくぎ付けだったから、気になるんだろうとは思ってたけど、それを隠そうとしないところが素直で気に入ったよ。」
「あ、ありがとうございます?」
「それじゃあ、はい。これ。」
紙を指し出せれる。
「これに、名前と所属したい部活の名前を記入して、担任の先生に提出してね。」
「わかりました。」
「特に期限はないけど、出さないとこの部に所属してることにはならないから。って、まあ、この部に所属してるかしてないかは、ほかの部に比べたら特に問題ないんだけど。」
「そ、そうなんですか。」
「別に大会もないし。具体的に部全体での活動もないからね。」
「わかりました。とりあえず先生に提出しますね。」
「ゆるーい部活だから、気軽に利用してくれたらいいよ。」
最後の一口を口に入れて、カップをお皿に乗せる。
「それじゃあ、そろそろ学校も閉まるし、寮に戻ろうか。」
なんだかんだと、学校を歩き回り、先輩と話をしていたら学校が閉まる時間になっていた。
「今日はありがとうございました。」
渡りに船とはこのこと。タイミングよく訪れた新たな出会いに私は頭を下げる。
「こちらとしても、新しい部員を迎え入れることができてうれしいよ。私は君の研究テーマ面白いと思うから、ぜひ定期的に進捗を聞かせてくれると嬉しいよ。それ以外にも何か困ったことがあれば相談してくれて構わないからね。」
「わかりました。いろいろ相談させてもらいます!」
その後、二人で部室を出て一緒に寮まで戻った。
帰り道、先輩の出身地やどんな場所なのか、またいろいろと新しいことを教えてもらいワクワクしながら一日を終えた。
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