踊り子の魔女 第六十七話:みんなでお出かけ
それは突然光ったペンダントから始まった。
***
「マリーマリー。どお??休み楽しんでるー?今みんなで遊びに行こうと思ってるんだけどマリーも一緒に行かない?」
「もちろん行きたい!けど、どこ行くの?決めてる?」
「ううん。全然。」
相変わらずの勢い。とにかく遊びに行きたいということが文面だけでも伝わってくる。
「マリーは行きたいところある?ほかのみんなにも聞いてみるからマリーも希望があったら言ってね。」
手が止まる。メッセージを打ち込む手が止まる。斜め上に視線をあげて、ぼーっと考え始める。行きたいところかぁ。
休みは三ヶ月。遠出ができるのなら、一度行きたい場所がある。でもみんなで行って楽しいかと言うと正直楽しくないかも。
スっと視線をペンダントに戻し、とりあえず希望を送る。
「よし。まあ、別にいつか一人でも行くし、今回はもっといい場所を誰かが提案してくれるでしょ。」
ランセに来て四年以上は経つが、今まで同年代の友達がいなかったから遊べる場所が私の知識の中にない。
とにかく、申し訳ないけど今回は他力本願で!
楽しみだなー、どこに行くんだろ。
***
なーんて、呑気に考えてたけど。実際は私の案が採用された。
何故でしょう。行って楽しいのか分からないのに。
「ねえ、ルル、もっと他の場所が良かったんじゃない。今更だけど。」
耐えられずに、私はルルに行き先を変えるよう促してみた。
「いいのいいの。別になんでも良かったんだから。それにさ、行くの難しいトーカとゼスは来なかったんだし。行きたい人だけ来てるんだよ今日は。」
「まあ、そうかな?」
「ね、セドル。セドルはここ来たかったんだよね?」
「そうだよ。僕もスイーズ湖には行ってみたかったんだよ。」
「セドルはやっぱり、精霊の歴史に興味があるの?」
「まあ、それもあるよ。」
「で、私はさマリーと出かけられたらなんでも良かったけど、ラキアは何で来たの?」
「おもろそーだから。色々。」
色々?って、湖行くだけだけど。
「色々ねぇ。」
ルルがチラッとセドルの方を見る。
「何?何かあるの?」
私は2人に向かって尋ねる。
「まあ、平たく言えばセドルの頑張りを応援しに来たんだよ。」
「別になんでもないからねマリー。ラキアの言ってることなんて話半分に聞いてればいいの。」
なんかいまいち、最近話が見えない時がある。
『で、あんたも、なんで来たの?』
『シェシェ様の行くところなら、私どこでもついて行きますわよ♡』
『そういうのいいから。』
「私が誘ったの。ミリにとっても故郷なんじゃないかと思って。」
『ありがとうマリー。でも私が生まれた時には既にスイーズ湖は離れてたのよ。』
「そっかぁ。じゃあウンディーネ様がいる湖の方が良かったね。」
一瞬ミリが驚いた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。何だろう。
『気を遣わないでちょうだいマリー。帰りたくなったら好きな時に帰るわ。それに私たちは長寿だから、百年くらい経たないと恋しさを感じないのよ。』
相変わらず、出してくる桁に驚く。
「百年かぁ。すげぇな精霊ってのは!!」
あまり精霊に馴染みのないラキアは、興味津々でミリのことを見ている。
『そう?凄いって言われても私たちにとっては普通のことですから、なんとも言えませんわ。』
「まあ、そうだよな。俺達も人間の寿命がすげーとか言われても困るしな。」
「精霊は見た目の老いはないの?」
『そうですね。幼体の頃に幼さは感じますが、老いた外見と言うのは、言われてみれば見たことありませんわね。』
「へぇー!いいなー。」
「まあ、そもそも人型じゃない精霊もいますから。」
知らない人しかいない場所ミリを連れて来るのに、少し不安を感じてたけど、案外すぐに打ち解けていて安心した。
「それで、後どのくらいなの?」
『もうすぐですわ。』
「え、ミリわかるの?」
『これでも一応水の精霊よ!当然。』
『一応、ねぇ。』
ポソッとシェシェがつぶやく。
何か、あったのかな二人とも。
なんとなく触れにくい雰囲気で、特に話を聞くこともなく、シェシェとミリのことはそっとしておくことにした。
***
「うわぁ。広い……。」
「ほんと!海みたい!向こう側見えないじゃん。」
目の前に広がるスイーズ湖は、想像をはるかに超えた大きさだった。
穏やかに波が揺れ、水辺には花が咲いている。
「こりゃすげえな。」
隣のラキアも感歎の声を漏らしている。
「こんなにきれいな場所がなのに、意外と知られてないのね。」
確かに、こんなにきれいなのにウンディーネ様の口以外からこの場所の話を聞いたことがない。
それにしても。
『何にもないわね。本当に。』
「うん。」
シェシェの言う通りだ。ここは空っぽで何にもない。生きているものの気配を何も感じない。
『本当ですわね。こんなに寂しい場所だとは思っていませんでした。』
『どんなに何もないとは言え、ここまでないなんてことがあり得ることに正直驚いた。』
シェシェがミリと真面目に会話をしていて、いつになく真剣な空気をまとっていて。私は二人の会話に入ることができなかった。
『傷が癒えるのは時間がかかるわね。本当に。』
『…静かすぎますわね。』
「大丈夫かいマリー。」
二人のことを心配していると、セドルがポンと肩をたたいて話しかけてくれた。
「三界大戦の傷跡か…。僕たちが知る由もない千年以上も前の戦いがまだ残っているんだね。僕に何かを感じることはできないけど、三人の空気からしてきっと何かあるんだよね。」
「本当に軽い気持ちで遊びに来たのに、思ったよりも空気が重くなっちゃってごめんね。」
「いや、僕は魔法史を学んでるから、こういうところに来るのはむしろ大歓迎だよ。だからマリー気にしないで。」
いつもの穏やかな笑顔でセドルが私のことを励ましてくれる。
「私。やりたいことが決まったかもしれない。」
ぽつりとつぶやく。前から何となく心にあったもの。ここにきて覚悟が決まった。
「おーい!セドル、マリー!向こうでボートに乗れるみたいだぞ!」
「マリー!一緒に乗ろー!」
…。
「ふっ、ふふふ。ボートって。ははは。」
ラキアとルルはここへ遊びに来た。だからこをこうして無邪気に私の心を明るくしてくれる。
「今行くー!ほらセドルも。」
セドルの手をつかみ、私は二人がいる湖畔の方へ走った。
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