踊り子の魔女 第六十四話:気づかないマリー

 さて、ウンディーネ様も帰ったし。私たちも帰るか。

っっ!

足が、足がしびれてる。立ち上がれずに一人地面に手をつく。

「マリー大丈夫?」

ルルが近づこうとするより先に、隣のセドルが手を出してくれた。

「つかまってマリー。」

「ありがとう。」

手をつかんで立ち上がる。けどちょっと一旦歩けない。

「歩けるようになったら言ってね。」

「本当にごめんね。」

「いいよ。気にしないで。……もし辛いなら、僕がおぶって帰ろうか?ダンジョンの入り口とはいえ、 地上までは少し距離があるし。」

セドルが、ものすごく優しく、そして爽やかな笑顔で提案してくれた。

「え!え!いいよ。いらない、いらない! セドルは今日一番頑張ってて疲れてるでしょ? それにしびれてるだけで、言ってる間に元に戻るから!」

「もし頼むとしても、ルルにお願いするよ。セドルが疲れてるでしょ。」

セドルが真顔になって固まってしまった。

ものすごい勢いで、セドルの提案を却下してしまったからかも。

「別に嫌とかじゃないよ!本当に大丈夫なだけ、おんぶはさすがに恥ずかしいし。…ほらルルは力持ちだからさ。」

「ルル…。」

セドルがルルのほうを見る。ルルはフッと鼻で笑った。

「セドルより、私の方が頼りになるからね。」

『そうね、前にもマリーは助けてもらったし。』

「前にも?いつ?」

「私が授業で倒れた時にね、保健室まで運んでくれたの。すごいよね。」

『この弱そうな男より、ルルのほうが安心。』

「シェシェ失礼でしょ!ごめんセドル。そんなこと思ってないから気にしないでね。」


私がシェシェに注意をすると、後ろから笑いが聞こえた。

「ぷっ、弱そうだってさ。」

「やめとけよ。」

ゼスがラキアを小突いている。


なーんて言ってるうちにしびれも収まって私は普通に立ち上がる。

スッとセドルから手をはなすと、セドルがパッとこちらを見つめてきた。

「もう大丈夫だからね。」

なんだか圧を感じて、思わず理由を述べた。

「そっかならよかったよ。」

そう言っていつもの穏やかな笑顔に戻ると、くるっと後ろを向いてゼスとラキアのほうへ向かった。


「さ、帰ろっか。ねトーカ、ルル。」

くるっと振り向くと、ルルとトーカが真剣な顔で何か話してる。シェシェも一緒に。

「なになに?どうしたの?」

「なんでもない。大したことじゃないから。」

そう言ってルルは話を切り上げた。

「おーい、男子帰るぞ!」

トーカが、何やら暴れている男子たちに帰るよう促しはじめ、それ以上私は聞けなかった。

「ねえ、シェシェ何話してたの?」

『秘密。聞かないで。』

シェシェはこういう時、食い下がっても絶対教えてくれないからあきらめた。


***


ダンジョンのある丘から帰る中、なぜかセドルが私の隣にずっといる。


「マリー。さっきのウンディーネ様との話、すごく真剣に聞いていたね。」

突然セドルが口を開いた。

「うん。悲しい歴史だなって思って。私に何かできないかなって、考えてたの。」

「そっか。マリーは本当に優しいね。……でも、一人で抱え込みすぎないでね。僕はずっと君のことを見ているから。君が転びそうな時は、いつでも僕が支えるよ。」

セドルの真剣な瞳が私を見つめる。

なんだか、すごく熱の込もった声だ。

「セドル……。」

「マリー……。」

「具合悪いの?」

「…………え?」

「なんか、変だよ?いつもと違うし!もしかしてダンジョン探索で何かあった?急いで戻ろう!」

「ちがう、違う、別に何もないよマリー。大丈夫だから。」


「あははははっ!!」

ついに限界を迎えたラキアとルルが、腹を抱えて爆笑し始めた。

「腹いてぇ! マリー、お前マジで最高だな! セドル!!ドンマイ!」

「セドルにも難しいことってあったのね。ははは!」

「マリー。あんたって子は、本当に……。」

トーカが呆れたようにため息をつき、ゼスは無言でセドルの肩をポンポンと叩いている。

「え? 私、何か変なこと言った?」

『いいのよマリー。あなたは何も間違ってないわ』

シェシェがなぜか誇らしげに頷いている。

セドルはトボトボと歩きながら、何かぶつぶつと呟いていた。

「……まだ駄目か……いや、焦らず……いつか必ず……。」

セドルはどうしてしまったのか、みんなが何を笑っているのか、私にはさっぱり分からない。

でも、ダンジョンはひんやりしていたけれど、仲間たちと一緒に帰るこの道のりは、とても楽しかった。




*****


『ねえ、二人ともちょっと確認したいんだけど、あの男マリーのこと好きなの?』

珍しくシェシェから、ルルとトーカに話しかけた。

「それ、私も思ってた。ルルどう思う?私には好きそうに見える。」

「そうね。あれは間違いなく気に入ってる。理由は不明だけど。」

『…。気に入らない。』

「私も気に入らない。何より、あんなに性格の悪いセドルに、マリーはもったいない!ダメ反対!」

「ルルの話を聞く限り、セドルにマリーはもったいないだろ。」


トーカも同調し、話し合いの結果【セドルがマリーに気があるのは間違いない】という結論に達した。

そして本題は、どうやってマリーとうまくいかないようにするかだが…。

しばらく三人でセドルとマリーのやり取りを見守る。


「あれは、どう見ても気づいてないわ。」

トーカが呆れたように言うと、シェシェが深く頷いた。

『あの子ね。直接的じゃないことに対して鈍感なところあるから。』

「だな、ちょっとセドルが不憫だ。」

「いいのよ。一生マリーには気づかないでいてもらわないと。あいつに難しいことがあるってわかって嬉しい。いい気味。」

ルルがニヤニヤ喜んでる。


結論。マリーは全く気付いていないので、今後も気づかせないようにする。

三人で結論がついた。奇妙な同盟が結ばれた瞬間だった。

まあ、トーカは正直どっちでもいいようだが、面白そうなのでという事らしい。


*****


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