踊り子の魔女 第六十五話:試験前
もうすぐ十二カ月が過ぎ、年に一度の進級試験が始まる。
焦って勉強する人もいれば、余裕がありそうな人、普段と何の変化もない人。
色んな人がいる。ちなみに私はいつもと変わらない人間だ。
ルルとゼスは焦ってて、トーカとセドルは余裕そう。ラキアに関しては、楽しんでる。ああ見えて勉強好きなのよね。
『マリーは勉強しなくていいの?』
「普段からしてるからね。それに直前で焦っても私の頭はそんなにすぐに吸収できません。」
『そうね、日々の努力が大切ね。今更焦っても仕方ないものね。』
そう言いながらちらりとルルのほうを、見下げている。
「馬鹿にしないで。気合があればなんとかなる。何とかする。」
「今年こそはルルも進級は無理ね。むしろ中等学舎を卒業できたのが不思議よ。」
余裕のトーカは、高笑いしながらルルをからかいに来た。
「そんなこと言ったらかわいそうだよ。ルル一緒に頑張ろう。私も一緒に、苦手な科目勉強するから。」
「マリィーー。マリーだけが友達だよ。」
「何言ってるの?ルル、自業自得なんだからしかたないでしょ?」
「そもそもさ、座学半分、実技半分なんだから。自分でいうのもなんだけど私たちは実技に心配ないじゃない。」
「そうだよ!いける、セーフセーフ。」
ルルが立ち上がり、いきなり元気になった。
『でも、半分。』
ピシャリとシェシェがルルにくぎを刺す。
確かに、いくら実技に自信があっても点数は半分を超えてはくれない。進級には七割点数が必要だ。何とかあと二割ルルに取らせなければ。
「だから、ルルはおとなしくもう一年、一年生をやればいいのよ。」
トーカが笑顔でルルのことをからかっている。めちゃくちゃ楽しんでる。口調は外面なのに態度が素に戻ってる。いいのかそれで?
キャラを保てないくらい、ルルのことを小ばかにしてトーカが楽しんでいると、ラキアが声をかけてきた。
「よお!楽しそうだな、何してんだよ。」
後ろにゼスとセドルもいる。
「ルルがもう一回一年生やるって話してんの。」
楽しそうに、トーカがことの経緯を話す。すると、ラキアも一緒に笑いだして、後ろのゼスは表情が曇りだした。
「ゼスもな、こいつも座学やばいんだよ。体使う以外ダメダメなの。しょうがねえから、今から俺とセドルで勉強教えてやるとこなんだよ。」
「マリーも一緒にどうだい?せっかくなら一緒に勉強しようよ。」
「私?」
セドルが私たちのことを誘う。私はトーカとルルに目くばせをする。
「やるやる、もう何でも使って必ず合格点を取る。たとえ悪魔の手でも取って見せる。」
「別に悪魔じゃないよ僕は。それに別にルルは一緒にやらなくてもいいんだよ?」
一瞬冷静な目でルルがセドルを見つめた。何?何かあった??
「今回は悪魔の手を取る。マリーだけを一人で行かせるわけにはいかない。」
「まあな。それには同意だわ。」
???
ルルが了承したことにより、私たちは一緒に勉強をすることになった。
***
というわけで、私たちは放課後図書館に集まっていた。
「うう……魔法史の年号なんて覚えられない!」
「俺もだ……剣の型なら一回で覚えられるってのに。」
ルルとゼスが机に突っ伏して嘆いている。
私も苦笑いしながら、手元の教科書と睨めっこした。
「私も、魔法の歴史の細かいところは少し苦手かも。大昔の神話とかは面白いんだけど、年代とか人名がいっぱいで……。ただ覚えるっていうのがちょっとね。」
私が小さくため息をついた瞬間、向かいの席に座っていたセドルがスッと紙を渡してくれた。
いつもの穏やかな笑顔で話し始める。
「そこが分からないならこれをあげるよ。 僕でよければなんでも教えるからね。」
「本当? セドルは歴史専攻だもんね。お言葉に甘えるね、ありがとう!」
「もちろんだよ。実は、マリーが苦戦するかもしれないと思って、ここ数年の過去問の傾向を分析して、出題されやすいポイントをまとめたものを作ってきたんだよ。」
「え、うそ、そこまで。セドル自分の勉強時間も必要でしょ。そんなに気を遣わないで。」
「はい!みんなこれ、セドルが作ってくれたんだって。無駄にしないようにしっかり勉強しようね。」
そう言いながら、私は受け取った束をルルやゼスたちにも配って回った。
「僕はいいんだよ、別にもう勉強するところはないから。マリーのためならこれくらい…って聞いてない?」
「ありがとうセドル、これでみんなも私も大丈夫そう!セドルの気持ちにこたえるために頑張るね!」
「……。マリーが喜んでくれたならよかったよ。」
ラキアが肘でセドルをつつく。
「……おいセドル。お前、マリーにだけ甘すぎだろ。俺たちのことは少しくらい考えなかったのかよ。」
ラキアが呆れたように言うと、セドルの笑顔がスッと消えた。
「ラキアとゼスには、ちゃんと指定した参考書があるだろ? それに、結果的にマリーのやさしさで過去問が手に入ったんだから感謝してくれ。」
「……あからさますぎる。」
ゼスが静かに目を伏せている。
ルルとトーカも、やれやれと首を横に振っている。
「だから今日は来たの。マリーをこの男と野放しにするのは危険だって思ったから。」
「てかさ、ルルの話だとセドルって人を小ばかにした高飛車な嫌な奴じゃなかったっけ?」
「そうよ。あの笑顔に騙されちゃいけない。私が長年どれほどあいつに苦汁を飲まされたか。」
「でもさ、なんか別にそんな悪くなさそうだけど。」
「そんなことない!絶対マリーを泣かせる。今のうちに叩き落とさないと。マリーに変な虫がつくのは困る。」
『ルル、今回ばかりはあんたに賛成。力になる。』
「ありがとう、シェシェ。絶対マリーに悲しい思いはさせない。」
『マリーに好かれようなんて、1000年早い。』
「ねえ、ルル、シェシェ、何話してるの?時間ないんだから早くやらないと。しゃべってる場合じゃないよ。」
特にルルが一番頑張らないといけないのに。
「セドルありがとう!本当面倒見がよすぎるよ。お母さんみたい!頼りにしてるね。」
「お、かあさん……。」
セドルの表情が固まる。
「そうだね…困ったことがあったら何でも相談して…。」
シーン。
「ぶっ……!!」
ラキアが吹き出すのを必死に堪えて肩を震わせている。
「ばか、っふ!耐えろ。笑うな…ふっ。」
ラキアとゼスが押し合っている。
「マリー。あんた、相変わらずあの才能と頭の良さをどこに置いてきたんだよ。」
トーカが深いため息をついて、呆れた目線を向けてくる。
「えっ? 私、何か変なこと言った?」
「別に。ただ私はとっても嬉しい!マリーそのままでいて!私は今のマリーがとっても好き!」
『知らないほうがいいこともある。マリー何も気にしないで。』
「そうだよな、セドルは頼れるお母さんだよ。私らも本当、世話になってる。」
「そうそう、セドルはみんなの頼れるお母さんだよな。」
お昼にルルを笑っていたラキアとトーカが、セドルのことを笑い出した。
「…今はいいさ、お母さんでも、少しずつ進むさ。」
「……。まあ、頑張れ、俺は応援してる。」
ゼスがポンとセドルの肩に手をのせる。
「ま、まあ、お母さんは失礼だったかな。頼れるいい友達。だよ。大丈夫、セドル?」
「……いや、大丈夫だよ、マリー。ちょっと、心に致命傷を負っただけだから。」
「致命傷??なんでなんで?? え、トーカ治癒頼む?」
「なんでって、あんたのせいだけどね。まあ、治癒魔法で治る傷じゃないからほっときな。」
「私のせい!?ご、ごめん。」
「まあ、あんたにマリーは早いのよ。」
ルルがどや顔でセドルを見て、なんかよくわからないことを言ってる。
どうしてセドルが落ち込んでいるのか、みんなが何を笑っているのか、私にはさっぱり分からない。
だけど、みんなでこうして机を囲んで、笑い合いながら過ごすこの時間が、私はとても好きだった。
「さあ、笑ってないで勉強の続きやるよ! 目指せ、全員進級!」
私はありがたく過去問を開き、気合を入れ直した。
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