踊り子の魔女 第六十二話:見せろ実力
学生生活が始まって早一か月。
今日から選択授業が始まる。待ちに待った精霊術の授業だ。
「マリー、気合入ってるねぇ。」
「そりゃそうだよ。だって精霊術だもん!」
ルルがにやにやしながら話しかけてくる。私は満面の笑みで振り返った。
学園の屋外にある訓練場。私の両隣には、なぜかルルとトーカが並んで立っている。
「それにしても、なんで二人が精霊術の授業を取ってるの? ルルは身体強化だし、トーカは治癒魔術でしょ?」
「ん? ああ、選択授業は別に好きなものを受けていいからね。特にこだわりの無かった私たちは、マリーに合わせることにしましたの。」
周りに人がいるときのトーカが、やっぱりまだ怖い。
「昼食の時にマリーが言ってた精霊術とのダンス!あれをどーしても一度生で見てみたかったのよね。だからトーカと一緒に合わせて取ったの。」
ルルが腕を組みながら、目をキラキラさせている。
なんだかハードルを上げられている気がするけど……でも、せっかくなら見てもらいたいな。私がずっと先生やシェシェと一緒に磨いてきたものを。
「よし、皆さん集まりましたね。」
担当の教師がパンッと手を叩いた。
精霊士の生徒は学園内でも数が少ないからか、授業を受ける人数もなんだかこぢんまりとしている。
「今日は最初の授業ですから、精霊士の皆さんがどれくらい精霊と親和ができているかを見せてもらいます。また、精霊士でない人もとれる授業なので、精霊を知っていくことを大切にして下さい。では、あそこに浮かんでいる小さな的を、精霊の力を借りて撃ち抜いてみてください。威力よりも、いかに正確に当てられるかを見ます。」
空中に、拳ほどの大きさの魔力でできた的がいくつも浮かび上がった。
正確さか……。
ランセに来てすぐの頃、先生に「葉っぱ一枚だけを上に飛ばしてみなさい」と言われた時のことを思い出す。あの時は小さいものを一個だけ動かすっていうのがどれだけ難しいか痛感したな。
「じゃあ、マリー。お手並み拝見といこうかしら。」
「う、うん。緊張するな。」
『あんたたち、マリーの才能に驚いて腰抜かさないでよ。マリーも弱気にならない。』
シェシェが私の肩の横で風を纏う。
私はスッと息を吸い、目を閉じた。
いつものように、流れを感じる。
自分の中ではなく、自然の中から。
ここ一か月、基礎魔法の授業で何度も倒れながら練習してきた「魔力コントロール」。
自分の少ない魔力を丁寧に絞り出し、少しずつ外に出す感覚。
あれをうまく応用して。今度は、シェシェと繋がるイメージをしてみる。
……あれ?
いつもなら、シェシェに繋がる感覚が、うっすらとした大きな霧の道をつなぐみたいだったのに、なんか手を伸ばせば、糸をまっすぐ投げられそう。
私の魔力とシェシェの風が、まるで細い一本の糸のようにピタリと絡み合っているのが分かる。シェシェの力の流れが、指先のミリ単位の感覚まで鮮明に伝わってくる。
「……見える。」
目を開ける。
私は、浮かんでいる複数の的をめがけて、下から上へ腕を振り上げた。
シュッ、シュッ、シュッ!
音もなく発生した鋭く細い風の刃が、宙を舞い、空中の的の中心を次々と正確に撃ち抜いていく。
少しもブレない。余分な風が周りに吹き荒れることもない。
ただ的だけを貫き、綺麗に霧散した。
「えっ……。」
「マジか……。」
「マリーすっごーい!」
後ろにいたルルとトーカが、驚いて歓声を上げてくれてる。
周りの生徒たちや先生も、驚いたような顔でこちらを見ていた。
「すごい……! 今の、マリーがやったのよね!?」
「精霊術ってああいうものなの?あんな静かに予備動作もなく?」
「どうやってるの??すごいすごい!精霊士ってすごいのね!」
二人が興奮気味に私の肩を揺さぶってくる。
『ふふん。どう? 私の言った通りでしょ』
シェシェがものすごく誇らしげだ。
でも、一番驚いているのは私自身だった。
これは絶対あれだ、魔法の練習のおかげだ。
自分の少ない魔力を必死にコントロールする訓練。それが結果として、精霊術を使う時の出力の繊細さを劇的に鍛えてくれていたのだ。
今まで大きく渦巻く霧を、さっと適当に集めてた感じだったのに。改めて今日シェシェを通して自然の魔力を鮮明に感じた。
それに、シェシェってなんか。強いって感じがした。うまく説明できないけど。
今なら、あの時先生に言われた葉っぱ一枚だけを動かすことも、簡単にできる気がする。
基礎魔法の授業は、いつも魔力切れになって大変だし、呪文を覚えるのに頭がパンクしそうになるけど。
けれど、あの訓練は決して無駄じゃなかった。
魔法を学ぶことは、私が一流の精霊士として成長するために、絶対にプラスになるんだ。
「ふふっ……私、もっともっと上手くなれる気がする!」
私は自分の両手を見つめながら、確かな成長の喜びに胸を躍らせ、四人でワイワイしていると、ふと周りの静けさに気づいた。
え。
周りを見ると、他の生徒たちが皆こっちを見ている。
まずい、授業中にはしゃぎすぎた。
バッと振り返り先生のほうを向くと、先生も真剣なまなざしでこちらを見ている。
「なるほど。ありがとうございます。では次の方お願いします。」
ひやひやしていたのに、何も言われることなく次を促され私たちは後ろに下がった。
「え、怒られなかったけど。」
「あの顔は何なの?私怖いよ。」
「私も、不覚にも自分の立場を忘れていました。」
「いや、トーカあんたは崩れてなかった。言葉遣いも完璧だった。」
『マリーがすごすぎて、あの人間言葉を忘れたのよ。』
「シェシェ!」
シェシェの口の悪さがばれないよう、急いで口をふさいだ。
それにしても、あの微妙な時間は何だったんだ??
それからほどなくして、精霊士は課題をクリアした。その後次回からの授業の説明をされて解散となった。
どうやら、この授業は精霊の歴史についてなど、座学がメインのようだ。どうりで、誰でも参加可の授業だったわけだ。
今まで実践しかしてこなかったから、座学が出来ることは私にとっては予想外のうれしさだった。
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