踊り子の魔女 第五十九話:まってました!
待ってました!この時を!
私は今までにないほど興奮している。
『ちょっと落ち着きなさい。』
シェシェがあきれている。でも今はそんなの気にしない。だってあんなに使ってみたかった魔法が使えるの!魔法の授業があるの。こんなにうれしいことってある!?
「魔法使ってみたかったんだよね。先生が呪文さえ覚えたら基礎魔法はできるから、やらなくていいって言って。そのままやらないできたから、期待値がめちゃくちゃ高い!」
「マリー魔法使ったことないんだ。まあ、でも精霊士ってそういう人多いの?」
「わかんない。先生以外の精霊士はあったことないから。それに、先生が魔法使ってるの何度か見たけど、ちゃんと使えるのかはよく知らないんだよね。」
「そっかぁ。まあでも、基礎魔法って、本当に呪文と魔力で使えるもので、コントロールも練習したらなとかなるもんだから、たくさん使えるようになるといいね。」
「うん!」
よーーし!とにかくたくさん呪文を覚えて、たくさん使えるようになるぞ!
「えい!やあ!」
『だから、呪文がいるんでしょ』
シェシェに呆れた声で言われる。そうだった、気持ちが急いてとにかく出そうとしてしまった。
「あははっ、マリー面白すぎ!」
一緒にいたルルにも笑われてしまう。恥ずかしくて顔があっつい。
「とにかく、なんか、なんでもいいから呪文を教えてルル。とにかく今、この場で使ってみたいの!」
「って言われてもねぇ。そもそも、先生が教えてくれるんだし一旦落ち着きな。」
「そ、そっか。」
確かに、これから授業なんだから、何かしら試しで呪文を教えてくれるはずだから焦ってやることないよね。…それにしても、本当早く始まんないかな。
***
「嘘だぁ。こんなのってあんまりだよ。」
「本当に、どうやってここに入学したのか不思議。」
『本当、なんでこの子合格できたの。』
本当に、みんなの言う通りだ。私、魔法使えないのに何がよくてここに入れてもらったの??
まさか、まさか、魔法が全く使えないなんて。言葉が出ないよ。周りのみんなは普通に使ってるし、少し苦戦してる子もいたけどなんとなくできるようになってる。
私、一回目の授業からこんなことになるなんて、今体から水分がすべてなくなるんじゃないかと思うくらい汗が出てる。
…どうしよう。
思考が止まって、自分の置かれているこの現実から目をそらしたい。
……。
「調子はどうですか?出来ましたか?」
基礎魔法の授業の先生、エルシカ先生が声をかけてきた。
「……。」
「あの、先生、マリーが全く風をおこせなくて。それで、その、さっきから固まっちゃってて。」
「なるほど、そうですか。そうですね…。おそらく風の精霊士だから風魔法を使おうとしているのでしょうが、必ずしも風である必要はないですよ。火、風、水、土、雷。この五つの基本属性の魔法の中から相性が良いものを使えばよいのです。もちろん練習でどれも使えるようになるので心配はいりません。ただ最初からできないのは面白くないと思うので、他のを試してみてください。」
「はい…。」
なるほど、なんか勝手に風が一番いいって思ってたけど、そういうわけでもないのかな。
「すーはー。よし。」
両手でボールをつかむように構える。手の中に雷をおこすイメージで。
「走れ、雷」
シーン…。
やばいやばいやばい。私この学校でやっていけるのか!??どうしよう、怒られる?呆れられる?私って魔法の才能無いの??
目尻がじんわりと熱くなる。泣いてる場合じゃないのに!
「ふむ。マリーさんは精霊士なのですよね。…であれば、もしかして。」
「おーーい、マリー、大丈夫?…ダメか?固まっちゃったよ完全に。」
『しっかりして、マリー…マリー?』
頭はこんなにも高速に回転しているのに、私には今の状況を到底受け入れられない。どうすればいいの?私もしかして退学?授業初日で?
「マリーさん、呪文はいりません。なんでもいいので使いたい系統の魔法をイメージで使おうとしてみてください。ただし、周りから力を取ろうとするのではなく、自分の中から絞り出すように。」
「はい…。」
これが最後、呪文も言わせてもらえないなんて。やっぱりダメなんだ私。
絞り出す、絞り出す、体の中から生み出す感じ。体から、手のひらからー。
ピカッ!
「え!!」
確かに今、今光ったよね。
「やったじゃないマリー!雷出てたよ。」
「確かに今のは魔法ですね。」
「え?でも魔法って呪文が必要なんじゃないんですか?」
「本来はそうです、呪文を唱えて、魔術を繰り出す。呪文はあくまで呼び出すためのカギ。あれは体の中にある、魔力を止めている錠を、開けるものなのです。ですが時として、体で感覚的に精霊術を使ってきた精霊士達の中には、無詠唱でできてしまうものがいるのです。」
「え、あの、じゃあ、私は呪文なしで魔法が使えるのですか?」
「そうではありません。この基礎魔法の授業で教えるのは、そもそも詠唱がなくても使える程度の小さな魔法です。基本属性であっても、威力の大きな大掛かりな魔法を使うには、魔力を制御するために必ず呪文が必要になりますよ」
「そうなんですか。」
ちょっと複雑でいまいち整理に時間がかかるが、つまり私は呪文を唱えることは可能だということは確かなようだ。
「魔術は奥が深いです。もちろん例外もあれば、本人の才能に左右されるものもあります。今は説明はこれくらいにしておきますが、興味があればぜひ魔術についてもっと知見を深めていただけると嬉しいです。」
なんだか、大量の情報を浴びたせいか疲れてきた。でも今はとにかく使えるようになった魔法をどんどん使いたい。呪文が唱えられなくても一応魔法は魔法だからね。
「ルル!もっといろいろやってみよう!」
「いいけど、あんまりやりすぎるのはよくないからほどほどにね。」
「わかってるって!よしじゃあ次は…。」
体の中から絞り出す。手のひらから出ていくイメージで。
つちを少し盛り上げたり、風をくるくるしてみたり。シェシェとつながってないのに不思議なことが出来ている!楽しいな。
「ねえ、ルル!」
振り返った瞬間、視界が傾く。あれ?足に力が…。
「マリー!」
ドサッ!
鈍い痛みが走って、だんだん瞼が落ちていった。
「いわんこっちゃない。ほどほどにしなって言ったのに。」
「大丈夫ですか、マリーさん!」
「大丈夫です。おそらくただの魔力切れです。私が保健室に運びますね。また後でマリーの容体は報告します。」
「わかりました。ではメレカ侯爵令嬢、よろしくお願いします。」
「よっと。」
『あなたすごいわね。マリーをこんな軽々と。』
「私は、身体強化魔法を使うの。マリーを担ぐくらい朝飯前よ。」
『ありがとう。』
「ふふ。どういたしまして。じゃあ行きますか。」
『それにしても、この子もしかして、魔力が…。』
「そうね、たぶんそんなに無いんだと思う。」
『やっぱり…。』
マリーが倒れたことにより、なんだか距離の縮まった二人なのだった。
***
「え。」
目の前に天井が広がってる。なんか前にも同じようなことがあったような。
ぼーっとした頭がだんだん働いてくる。
はーーっ。額に手を当てながら、今の状況に言いようのないモヤモヤした気持ちがのしかかる。
「またかぁ。ここ数年は全く無かったのに。」
あまりに弱い自分の体に情けなさを感じ、体力作りをはじめ、先生の仕事を手伝うようになってからは全く倒れたりはしていなかったのに。また、こんな所で、トホホ。
『おはようマリー。どう気分は?』
シェシェが私の顔を上から覗き込む。
「久しぶりすぎで自分でもびっくりしてる。」
「ただの魔力の枯渇だから。大丈夫、大丈夫。」
ベッドの横にはルルが座っている。
ん?魔力の枯渇?
「つまり、魔力が無くなったってこと?」
「そうそう。まあ多分マリーは魔力が少ない。そこそこ。いや、結構?かな。」
え、そんな、そんな事って...。じゃあ、私あんまり魔法できないってことじやん?!
「魔力は増えないの??」
「体力みたいにある程度は増えるけど、体力みたいに伸び率はよくない。正直限界がある。ま、今回は最初だったからすぐ倒れたけど。今後は一度に使う量のコントロールと、そもそもの量を増やせば大丈夫。...大丈夫だけど、そんなに期待はしないで。」
ははは。そっか、そうなのか。精霊術しか使ってこなかったから、自分の中の魔力の量なんて考えたこと無かった。
とっても落ち込む。はぁーあ。
「はぁーー。」
『誰にだって、向き不向きはある。マリーは精霊士としての才能に恵まれてる。全部を手に入れるのは無理よ、それは受け入れていくしかないの。』
受け入れる。そっかぁ。そうだよね、私精霊が見えるんだもんね。見えない人もいるのに。
『それに、精霊士は自然界の魔力を使うから、好きなだけ使えるじゃない。』
た、確かに?そうか、そういう見方もある。
「そもそも、言っちゃえばマリーは魔術師じゃないじゃん。」
そうだ。そうだよ。
二人が私のことを励まそうと、色んなメリットを伝えてくれる。
「うん。大丈夫。そうだよ。二人の言うとおりだよ、自然界の魔力いっぱい使うし。私は魔術師じゃない。うんうん、そうだよね。」
まあ、ショックはショックだけど、くよくよしてても始まらない。仕方の無いことだと、自分に言い聞かせるようにして私は元気を出すことにした。
『魔法が使えなくても、マリーが素晴らしい精霊士であることに変わりはないの。』
「シェシェー。」
「そうそう。誰だって得手不得手はあるよ!みんなで得意を伸ばそう!足りないところは補い合う。それが人生。」
「そっかぁ、それが人生か...ってスケール大きいね。」
「まあ、クヨクヨしてても始まらないってこと。よしっ、じゃあ私は先生にマリーが目を覚ましたって報告してくるね。あ、それと、多分気づいてないと思うかけど、もう今日の授業は全部終わったからね。後で迎えに行くから、帰る準備しといてねー。」
キョウノ、ジュギョウガ、オワッタ?
え。
勢いよく窓の方に視線を向ける。けど、今の時期別に日が落ちてるわけでもないから分からない。
「シェシェ、本当に??!!本当に今日はもう終わり??」
『多分そうなんじゃない?みんな校舎を出ていってたから。』
ははは。
あまりの衝撃に、ルルが迎えに来るまで、私は一言も喋れなかった。
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