踊り子の魔女 第五十六話:試験
「大丈夫だって。自信もっていっておいで、マリーなら余裕で合格できるよ。万が一できなかったとしても、一般試験で入ることもできるんだから。楽しんで、気楽に受けてきな。」
先生は、笑いながらそういうけど、試験を受ける本人的にはとてもじゃないけど、楽しむなんてできない。
今だって、門の前に立ってるだけなのに、何だか胃のあたりがすっごく重い。気持ち悪い気もしてきた。
『いいから、早く入りなさい。遅れるよ。』
「そうそう、行った行った。」
「ううう。」
誰も私の気持ちは汲んでくれない。みんなで寄ってたかって、私のことを学校に入れようとして。
『私も一緒にいるんだから。大丈夫でしょ。』
「そうだけど。そうじゃないよ。」
『はいはい、もう行くよ。』
そう言って、私よりも先にシェシェのほうが中へ入っていった。
「まってよぉ。」
「とりあえず、終わるころにまた迎えに来るから。」
「マリ姉。頑張ってね。」
「ありがとうクレア。……はぁ、よし!じゃあ行ってきます。」
こうなったら行くっきゃない!
もたもたしてたら、間に合わないのも事実。腹をくくって私は門をくぐった。
半年頑張った、半年頑張った。心の中で何度も念じる。
「おはようございます。受験者の方ですね、こちらにお名前をご記入ください。それと、受験用紙もこちらにお願いします。」
ペンを渡され、震えながら名前を書く。自分の手なのか信じられないくらい震えていて、ちょっとおもしろかった。
おかげで、ほんの、ほんの少しだけ緊張が解けた、気がした。
「確認できました。それではあちらへどうぞ。」
「ありがとうございます。」
お辞儀をして、私は案内されたほうへ向かう。同じ受験生であろう人たちが見える。
なんだか、また胃が気持ち悪くなってきたかも。
『しっかり歩きなさい。そんなんだと舐められる。』
「はい。」
こんな時までシェシェに怒られながら、会場の中へ入る。
ざわざわ、ざわざわ。
意外とみんなおしゃべりをしていて、少し緊張が解けた。
『大丈夫だから。』
ぽつりとシェシェが呟く。こちらを見つめるその目はまっすぐで、本気で私のことを信じてくれているのが伝わった。
「正直、試験内容がわからないから、ドキドキしてるけど、シェシェと一緒だから、精一杯頑張るよ。」
シェシェがにこりと笑う。
それに、こんなにたくさんの精霊を一度に見られるなんてそうないことだ。いい勉強にもなると思うから、他の人のこともしっかり見ておこう。
今回のことを、試験ではなく、勉強の一環としてとらえると、さっきまでの苦しさがなくなっていった。
パンッパンッ!
手をたたく音が聞こえ、皆が一斉にそちらを見る。
「皆さん、おはようございます。本日の進行を務めさせていただきます。アルセ・トトカと申します。緊張しているとは思いますが、皆さんが最善を尽くせるよう願っています。それでは、早速ですが試験の内容を発表いたします。」
***
まさか、さかさま。そんなことってある?!
自分の得意なことを何でもいいから披露するって。あまりにも抽象的じゃない??
『マリーイライラしないで。』
「イライラしてない。焦ってるの。こんなの予想してない。もっと直接的でわかりやすいお題なんじゃないの?こういうのって。得意って何?得意って!!」
『何でもいいから、落ち着きなさい。』
落ち着けない。戦うとか、課題のクリアとか、先生と模擬戦とか、何かもっといかにもって感じだと思ってた。
「はぁぁぁぁ。」
突然廊下の端から大きな声が聞こえた。
「なに?」
他の人達もそちらを見ている。目線の先には、赤毛の女の子が、銀髪の女の子と話しているようだった。
「静かにして!こんなとこで大声出さないでよ!試験会場なのよ!」
「だって、何?あの課題。得意なことを披露するって。私、銀魔術師なの。治癒の魔法使いなの。……こうなったら、あんたに大けがしてもらうしか……。」
「やめてよ。そんなことしたら、私が何もできないじゃない。」
「じゃあ、どうしろっていうのよ。もう次なのよ!いいわよね、ルルは、肉体強化だもん何でもできるじゃない。」
「またすぐそんなこと言うんだから。とにかく一緒に考えるから、一旦落ち着いて。」
ガタン!
大きな音がして出口の扉が開く。どうやら、試験が終わったようだ。
二人の男性が、大けがをした状態で出てきた。
「けがの手当てを致しますので、こちらへどうぞ。」
係員についていこうとする二人を、ルルが止めた。
「やっぱり私たちって強運!待って!ねえ、よかったら、この子の試験一緒に受けてあげてよ。こう見えても優秀な銀魔法使いなの!!」
ほんの少し沈黙が流れる。
「俺はいいけど。どうするゼス?」
「治れば何でもいい、早くしてくれ。」
「じゃあ決まりね!さあ!トーカ頑張って。」
「こんな、いきなり……。ありがとう。いっちょやってくるわ。」
トーカはそう言って三人で、試験会場へ入っていった。
***
「なんか、大丈夫そう?」
一瞬揉めているのかと思ったけど、銀髪の子が前の受験者と一緒に入口から入っていった。
『人のことより、自分のこと。』
「そうだった。得意なこと。うん。やっぱりこれしかないよね。」
シェシェを見上げる。シェシェも同じ気持ちだったのか、笑いながらうなずいてくれた。
「必要なものは用意してくれるって言ってたから、音楽をお願いしよ。」
『じゃあ、試験対策でちょっと久しぶりになったけど。』
「ここは一発気合入れて頑張りますか!」
「試験番号89番。マリーさん。中へどうぞ。」
「はい。」
タイミングよく呼ばれる。こぶしを握り会場へ入った。
***
天井が高くて、大きな部屋。大きな学校だと思ってたけど、試験会場だけでこの大きさなんて。エピス図書館といい勝負かも。
「こちらへ。」
「はい。」
ダメだ、見とれてる場合ではない。
会場を四つに分けて試験を行っているようで、先ほどの女の子の姿も見えた。
「マリーさんですね。それでは、ご自身の得意なことを思う存分発揮してください。何か必要なものはありますか。」
「それでは音楽をお願いします。私は、精霊と一緒にダンスを踊りたいと思います。」
「わかりました。それでは用意しますね。」
どんな曲がいいのかを確認し、準備が整う。
「では、音楽お願いします。」
係の人がうなずいて、曲が流れ始める。
大きく腕を上げる。シェシェと出会った日を思い出す。しなやかに美しく。
足を前にだす、踏み込んだ瞬間に風が起こる。楽しく踊る、それが一番大切なことだから、今日は思いっきり、今までで一番よかったって思えるダンスをする。
くるっと回って、軽快なステップを踏む。いつもみたいにきれいに揺れる衣装は無いけれど、私に見えるきれいな風を、全身で表現したい。
シェシェと目があう。やっぱり楽しい。それになんでかわからないけど、今日は本当に気分がいい。
最後に、風に乗って回りながら宙を舞う。着地も美しく、ふんわりと。
姿勢を整えて。お辞儀をする。
パチパチパチ。
試験官たちが拍手してくれている。試験の結果はわからない。でも、私は今日ここに来れてよかったと思えた。
「お疲れ様でした。それではこちらから外へ出てください。」
「ありがとうございました。」
もう一度お辞儀をして、私たちは試験会場を後にした。
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