踊り子の魔女 第五十五話:嬉しいお願い
「ジャジャーン!これが我が家です!と、言っても私はもうすぐ出ていくんだけどね。」
クレアちゃんが、ものすごい勢いで振り返る。
「え、いなくなるの??なんで??」
まゆが下がり、みるみるうちに不安の表情を浮かべる。
そうなのだ、なんやかんやと用意が忙しかったり、勉強に明け暮れたり。その上、ただただ言いにくいという理由でクレアちゃんには、私が学校進学のためにここを離れることを伝えていなかった。
「ごめんね、もっと早く言えばよかったんだけど、言い出しにくくてここまで引き伸ばしちゃった。」
「……。一緒に、行く。」
!!は!ナニヲイッテルノコノコハ……。
「ダメに決まってるでしょ。……クレアちゃんには、まずここでシンシア先生に精霊士としてしっかり育ててもらうの。それにまだ三ヶ月くらいはここにいるから。その間は一緒にいられるし、私が寮に入っても長期休暇は戻ってくるから。」
私はしゃがみこみ、クレアちゃんの目をしっかり見つめる。
「大丈夫だよ。」
「そうそう。君は今日からマリーの妹弟子になるんだ。これからは、自分の身を自分で守れる力をつけていくんだよ。それに、そんなに遠くないところなんだ、会いたいときに会いに行けばいいさ。」
クレアちゃんの後ろから先生が歩いてきた。
「声が聞こえたから、帰ってきたと思ったのに全然入ってこないから様子を見に来たら、なんだか暗いし、クレアがうちに来るパーティーの準備までしてたのに驚いたよ。」
パンッ!と手を叩き私は明るい声を出す。
「クレアちゃんのためにパーティーの準備をしたの。……私達は、クレアちゃんを置いていったり、ひとりぼっちにしたりしないよ。」
クレアちゃんの表情が和らぐ。
「本当に?」
「本当だよ。」
「マリーが居なくても、私がいるよ。君の教育を行う家族としてそばに居る。」
『あたいだって居るんだよ。寂しくないさクレア。』
クレアちゃんはコクコクと頷く。
そして、先生と私の前に立ち頭を下げた。
「今日からよろしくお願いします。シンシア先生。マリーお姉ちゃん。」
しっかりしているなと思いつつ。同時に悲しさもある。この子が、早く大人になる事が必要だった結果だ。
ん?お姉ちゃん?って言ってくれた??お姉ちゃん?!
「い、今!お姉ちゃんって言ってくれたの!!」
「はい。妹弟子なので、マリーお姉ちゃんは、お姉ちゃんです。」
はぁ!可愛い!
私を見つめるクレアちゃんの耳はピンと立ち、前かがみになった背中の後ろでは、尻尾が左右に揺れている。
「さあさあ、パーティーを始めるよ。早く入りなさい。」
先生は、可愛さの余韻に浸らせてくれることなく、家に入るよう促してくる。
くぅ。でも、これからもっと呼んでもらえるしね。今回は我慢。
ニヤけが止まらないよ。
『マリー。顔。変。』
冷たく辛辣な声が聞こえる。
『外でそんな顔するのやめなさい。』
容赦なく次の攻撃が来る。
「だってぇ。あんなに可愛いのににやけるなって方が無理でしょ?」
『はぁー。』
呆れた顔してシェシェは家に入っていった。
「それじゃあ、クレアちゃん私達もはいろう。」
「うん。」
私は、クレアちゃんと手を繋ぐ、一瞬クレアちゃんは驚いた表情をしてこちらを見た。にっこりと笑顔を返し、そのまま家の中へ入る。
「さあ、改めて、我が家へようこそ!今日から君は私たちの家族だ。辛いときは誰かがいる、安心して、幸せになるんだよ。」
先生が、大きな声でクレアちゃんに歓迎の言葉をかける。
「ね!見てこれ。ケーキ、大きいでしょ。ご飯も好きなだけ食べていいからね。」
「こんなに、たくさん。」
クレアちゃんの目がキラキラと光る。
「本当にいいの?」
「もちろん。お腹がはち切れるくらい食べてね!」
『あたいも、あたいも食べていいのか?!』
「もちろん。ベラも好きなだけ食べてね。」
『二人に喜んでもらうために、二人で一緒に頑張ったのよ。美味しいからたくさん食べて頂戴。』
「ありがとうミリ。手伝ってくれて。」
「それじゃあ、グラスを持って好きなのも物を入れて。」
みんな好きな飲物をグラスに注ぐ。
「それじゃあ、クレアとベラ、二人の新しい家族に乾杯!」
先生が高らかにグラスを上げ、みんなも続けてグラスを上げた。
***
クレアちゃん歓迎パーティーから数日が経ち。クレアちゃんもこの家に馴染んできた。
先生やミリ、シェシェとも普通に話せるようになり、だいぶ同じ年頃と同じような雰囲気になってきた。
と、クレアちゃんのことばかり気にしていられない。自分の試験が一週間後に迫っている。
試験は実技のみということで、クレアちゃんの訓練と一緒に基礎固めをすると同時に、先生と戦闘の特訓をしてる。正直試験内容がわからないから、戦闘練習してたら他の試験でも応用できるかな、できると思いたい。
それに、私には踊りがある。風を操れるようになって、魅せ方も色々とできるようになった。やっぱりこれだけは手放せないなぁ。
演舞でも、なにか他の課題でも、大事なのは実戦経験による確かな実力。だから、とにかく実戦あるのみ。
というわけで、いま机の上で今日の良かった点、改善点を書き出して明日の練習に活かそうとしている。
「はぁぁぁ。」
眠くなってきたし、今日は寝るか。
コンコン。
扉をノックする音が聞こえて、扉の方を向く。
「マリーお姉ちゃん。入ってもいい?」
「どうぞ。」
こんな時間にどうしたんだろう。すでに寝ていると思っていたから驚いた。
「電気がついてたから、これ、お茶持ってきたの。」
「ありがとおぉ。」
クレアちゃんを部屋に招き入れて、お茶を受け取る。
「あったかい。気を使ってくれてありがとうね。私ももう寝るから、クレアちゃんも寝るんだよ。」
「うん、あの⋯、その、クレアちゃんって呼ぶの、やめてほしくて。」
え??
「ご、ごめん。あの、じゃあ何て呼べばいいのかな?」
呼び方が良くなかったのかと焦り、思わず早口になってしまう。
「クレアって呼び捨てにしてほしくて。そしたら…本当の、お姉ちゃんみたいだなって、思って。」
もじもじしながら、クレアちゃんが思いを伝えてくれた。
「そういうことかぁ。良かった、そんなことならお安い御用だよ。クレア♪」
クレアの顔がぱっと明るくなる。
「ありがとう!じゃあ、おやすみなさい。」
お礼を言うと、少し恥ずかしそうにしながら、そそくさと部屋を出ていった。
「びっくりした。でも、なんか初めてクレアちゃん、じゃない、クレアがお願い事してくれて、嬉しいな。」
『マリー、嬉しいのもわかるけど、あなたもさっさと寝なさい。』
「はーい♪」
寝る前に、こんなに嬉しいことが起こるなんて。嬉しい気持ちでベッドに入れて、今日はいい日だなー。
クレア、クレア。ココロの中でつぶやきながら、私は眠りについた。
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