踊り子の魔女 第四十六話:夢の芽生え
「では、今日は座学をします。マリーは正直知らないことが多すぎるからね。これからのためにしっかりと知識をつけてもらうよ。」
「頑張ります。」
「よろしい。最初は何について話そうかな……。必要な時にその都度教えてきたこともあって、割と順番を考えずに教えてきたからな。」
『ねえ。マリーって結局魔法は使えるの?』
「使えるよ、この前のペンダントの色からして、風の魔法は適性が高いと思うよ。もちろん練習次第で、他の系統も使えないことないしね。」
『じゃあ、魔法教えてもらえば?呪文が唱えたいんでしょ?』
「確かに!先生魔法教えてください!」
「それは、自分で本を読んで、詠唱を覚えて練習すればいいだけだから。今私が教えても時間がもったいないよ。」
「自習が出来るんですね。」
「そうそう。じゃあ、今日はマリーが聞きたいことにこたえていくっていうのでもいいかもね。」
「聞きたいこと……。じゃあ、あの、歴史について知りたいことがあります。」
「歴史か、精霊の歴史かな?」
「はい。精霊が、他の場所へ移ってっていのは具体的にどういう事なんですか?」
「オプラスに移り住んだんだ。三界大戦のあと、ここ中間界であるメディウスは大きなダメージを受けた。自然が減り、精霊たちは生きる源を大きく失い、種族の存続の危機に陥った、だから星を渡ることにしたんだよ。」
「星を渡る。しかもオプラスに。オプラスってもともと何もいなかったんですか?」
「みたいだよ。小さな星だからね。けど、精霊だけなら支えられる。だから移り住んだんだろうね。」
「星ってそう簡単に渡れませんよね?どうやったんですか?」
「今では、召喚術とか、それこそ転移門とかあるから。行こうと思えば行けるし、呼べるけど。やはり大きな魔力がいる。だから、当時の精霊王が命と引き換えに橋を架けたといわれている。今でもそれは精霊たちがこちらとあちらの行き来に使っている。」
「命と引き換え……。」
空気が少し重くなり、私は無意識に息をのんだ。
先生の表情には、いつもの気楽さはなく、真剣だった。
「もちろん精霊王だけでやり遂げるのは難しかったから、他の種族も協力をしたんだ。特にメディウスに住んでいない種族は、この地を戦場にしてしまったことへの罪滅ぼしのためといわれている。」
「三界大戦のって本当に全種族が集まってたんですね。というか、なぜ三界なんですか?」
「ここメディウスと、ノクス、ソムニアの三つだよ。」
「あ、そうかオプラスはなかったんですね。」
「そうそれで、橋を架けた後、星を豊かにするため精霊族以外の種族が魔力を送り、豊かな星にしたんだ。」
「そうだったんですね。三界大戦って歴史的に大きなものだってことは知ってましたけど、終わった後もそんなに大変なものだったんですね。考えたこともありませんでした。」
「その後、中間界も次第に元の姿に戻り昔のように精霊が生まれるようになってきているらしいしね。」
『そう。ここ数百年は安定して生まれているから、自然の力も元に戻ったと言っていいと思う。』
「だ、そうだ。精霊が言うんだからそうなんだろう。」
「旅を出る前に、町の神父様に聞いたんですけど。昔の人は精霊を見ることが出来たって。今の話が本当なら、精霊が増えたら、また当たり前に精霊が見えるようになるんでしょうか?」
「どうだろうね。それは正直わからないよ。」
『それは、私たちにもわからない。私自身もその時代を生きてはいないから。』
『そうですわね。わたくしのおばさまも、おっしゃってたけど、水の精霊だけ見れば、昔ほどの数には戻っていないみたい。』
「おばさま?」
『わたくしも、シェシェ様同様、自然界からではなく、親がいる精霊なのよ。』
「そうだったんだ。ってことは、まだまだ少ないってことか。それに、その時になってみないとわからないってことですね。」
「そうだね。私たちは、未来につなぐしかないね。」
三界大戦。原初の時代の終わりを告げた、誰もが知ってる大きな対戦。
知識としては知っていたし、大変なものだったことは想像がつく。けれど、それが想像を超えるほど大きな被害を、精霊族にもたらしていた。今の人間は精霊を認識できなくなったと、以前神父様が言っていたけれど。まだまだ精霊は少ないらしいこともわかり、私に何かできることはないのか考える。
自分でも気づかないうちに、ほんのりと精霊士としての目標が芽生えた。
***
私の胸に小さな目標が出来て三年。
日々は瞬く間に過ぎていった。
図書館で本を読んで帰っている途中。
前から精霊が飛んでくるのが見えた。
珍しいな、こんな街中で精霊を見るなんて。すれ違いざま、精霊と目があう。
相手は驚いたような顔をしていた。
『助けて!お願い!』
突然声をかけられて振り向く。さっきの精霊が涙を流しながら、必死な顔をして私のことを見つめている。
『私のこと見えてるんでしょ?何でもするから、助けてほしいの!』
助けないといけない。直感的にそう思った。
「何をしてほしいの?」
『私の大事な人を助けてほしい。このままじゃきっと死んじゃう。』
「!!!どこにいるの。」
『こっち!』
私はその精霊について走り出した。
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