踊り子の魔女 第三十三話:呪文いらないんだ

 あれからいくつかの、小さな村を経て私たちは三日ほどで山のふもとの村まで来た。
シェシェとのダンスのレベルも上がり、前はすべてシェシェに任せていた、風の使い方を、今では目くばせでできるようになった。阿吽の呼吸だ。
トリアにいたころは、踊ることに精いっぱいで、楽しい気持ちを忘れていたが、今では毎回楽しく踊れている。

今日の村でも、ダンスで少し稼ぐことが出来た。ほんのちょっとだけど。
先生は、私がダンスの披露をしている間に、山登りの準備を整えてくれていた。小さな村だけど、山のふもとの村なだけあって、山で必要なものは簡単に手に入ったらしい。

グアルド山は、険しい山ではないらしくそこまで気負いすぎなくていいらしい。
その分、山に入り自然と植物の多い場所になるから、普段より自然を感じやすい環境になるということで、次の練習に移ることになった。

「明日から山の中だ。当然だけど植物が多くなり、自然にあふれる環境に身を置けるようになる。だから明日からは、マリーには、自分で風を起こせるようになる練習をしてもらうからね。」

「自分で、風をですか?もうそんなことできるんですか?」

「できるさ、最近踊るときに、シェシェと息が合ってきたって言ってたじゃないか。そろそろ親和力も高まってきたと思うし、一旦やってみてもらおうと思う。」

「そうなんですね、わかりました。頑張ります!」

「よしよし、とは言っても、はい風を出して!って言ってすぐに出ない。まずは、自然の中にある風の流れを感じて、風そのものの存在を感じるところからだ。」

「風、そのもの。」

「そうだよ、普段風が吹くといっても、体に当たっているのがわかるほどの強さがないと感じないだろう?でも実際は空気の流れはいつでもどこでもある。だからその小さな、普段感じない流れを意識して感じてみてほしい。」

「わかりました。」

「シェシェには常にそばにいてもらうと、風を感じやすいと思うよ。だから、山の中では歩きながら風の、空気の流れを意識してみて。やっている内にわかるようになってくるよ。」

「風を感じたら、風を起こせるんですか?その場の風を使うんですか?」

「もちろん、その場の風を操って、そこの空気を換えることもできるし。自分の意思で風を作り出すこともできる。でも、どっちもすぐには無理だよ。今回は、手のひらの上で風を作ってみるところを目標にしよう。大きさなんかは気にしなくていい。とにかくちょっとでも作れたらいいからね。」

「あの、何か呪文とかいるんですか?」

「いらないよ、精霊術は精霊の力を借りて作り出す魔術だから。精霊と意思を一つにして、イメージで作るんだ。だから、可能性は無限だよ。」

「そうなんですね。呪文ないんですね。ないのか。」

「ちょっと残念そうだね。でも楽だよ、ただイメージすればいいだけだからね。一応術を使うとき、精霊の名前くらいは言うけど。」

「ちょっと、呪文かっこいいなって思ってたんですけど。でも、イメージを出せるっていうのは、本当に可能性が無限ですね。」

「そうね。たいていの技は、やはり、雛形みたいなのがあるけど。思ったものを出せるというのは、イメージ力しだいだ。マリーも色々試してみるといい。とは言いつつも、まずは風を出したり操れたりしないとね。ってことで、焦らなくていいから、まずは風や空気の流れを感じていこう。」

「はい!」

呪文、ちょっと言いたかった。でも、まあないものはしょうがないと思いながら。明日からの新しい訓練にワクワクが止まらなくなった。

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