踊り子の魔女 第二十八話:船の上で大混乱

旅は始まって二日目。現在どこに向かうか、話し合い中。いや、やや揉めている。

『だから、テームの村のほうがいいって言ってるじゃない。』

「確かにあそこも、そこそこ大きな村だ。でも少し頑張ってランセの町まで行ってしまおう。」

『でも、遠いわ。マリーはまだ小さいのよ。』

いや、一応もう16歳ではあるよ、ミリ。

「十分行けるって。それにどうせランセには行くんだ、早く行かないと暑い時期に入る。移動するのが大変になる。」

『それは、そうだけど、でもいくら何でも山を越えて、いきなりランセを目指すなんて。マリーは、旅の経験は浅いのよ。テームに留まらないとしても、山の手前の町や村で一度は休みましょう。』

「そうか。旅を始めてまだ三か月もたってなかったんだね。そのことを忘れていたよ。ごめんマリー。」

「いえ、大丈夫です。暑くなるから早く行かないといけないっていう先生の話も。私の体力を心配してくれてるミリの話も。どっちもありがたい話ですから。ありがとうございます。」

「ありがとうマリー。じゃあ、ランセまで急ぐとして、山道の前に一泊、近くの村で休むとしよう。」

「はい。」

『ねえ、そもそもなんでそんなに急ぐの。それになんでランセなの?』

『イーリヤには涼しい時期というのはありませんから。』

「そう、今は普通の時期で、後一か月ほどで暑い時期が来る。それにランセは、イーリヤの中心都市。だから大きな図書館もあるし、魔術師もたくさんいる。どうせなら、人が多くて情報の多い場所に行こうと思っているから。つらい時期に入る前に、移動を済ませようってわけ。」

『なるほどね。』

「そういえば、シェシェは、他の国に行ったことないの?」

『私は、人間の土地の呼び方はわからないけど、いろんなところに行ったから、おそらく他の国にもいったと思う。でも海を越えようと思ったことはなかった。』

「そっかぁ。じゃあ、シェシェも新しい何かに出会えるといいね。」

『そうね。』

話し合い?もひと段落つき、私たちは船の甲板へ出る。いつの間にか時間が過ぎていたようで、太陽は私たちの真上に来ていた。

「昨日も思ったけど、海って独特の香りがするね。」

『ちょっと臭い。私は苦手。』

「実は私も。それに、川と違って下が全く見えないよ。落ちたらどうなるんだろう、怖いね。」

『もし落ちても、マリーくらい、すぐと助けられるわよ。』

『大丈夫、私は落ちる前に助けられる。』

「へへ、二人ともありがとう。でも落ちないよ絶対。気を付けるから、絶対。」

一通り海を見終わると、端のほうに座り、持ってきたパンを食べた。
この船は、三、四日でイーリヤにつくらしい。思っていたよりも短くて驚いた。今日の朝、港を出てから半日ほどたち、トリアの町もすごく小さくなって、ほぼ見えない。
なんだか、ぼーっといろんなことを考えていると、それは突然やってきた。


「おい!嘘だろ!」

「こんなのがいるなんて聞いてないわ!」

「あんなにいるのに、どうすんだよ!」

人々が、叫び、走り、船の上は瞬く間に混乱に陥った。

「この船は貨客船とはいえ、荷物のほうが多い船だ。そんなに護衛は乗せてないだろうね。魔術師が一人くらいいればいいが。」

隣で先生が呟く。

「先生、今はそんなことより、逃げないと。っていうか、逃げるっていうか、どうすればいいの。どうすればいいんでしょう?!?」

視界の端に、何人かの護衛と思われる人々が見える。でも、あんな、四人なんて。
それに、見るからに魔法を使えそうな感じはしない。どうすればいいの。
すると、先生が突然立ち上がり、魚の魔物が向かってくる方向へ歩き出した。

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