踊り子の魔女 第二十七話:港へ

 「よし!じゃあ出発だ。」

先生の掛け声とともに、私たちは新しい旅を始めた。
足は軽く、気持ちも浮ついている。これから始まる未知との遭遇、知らない知識との出会い、聞いたことのない言葉。考えただけで、ワクワクしてくる。

「とは言ったものの、行先が決まっていない。できればこの国を出て海の向こうの国、イーリヤ帝国へ行きたいと思ってる。どうだいマリー?」

「イーリヤ帝国ですか!行きたいです。故郷にいた時、商人のおじさんが話してくれた国で、一度行きたいと思ってたんです。」

「それはよかった、イーリヤはこの国に比べて、精霊が多い。だから、マリーの修行のためにも最初につれていこうと思ってたんだよ。」

『あの国は自然が豊かだから、当然精霊も多いのよ。』

「そうなんだ。それで、船ってことは、港のほうまで行くってことですよね。」

「そうそう、今日中に船には乗れないから、一旦港のほうまで行って、一泊してから出発しようとおもってる。」

「だから、昨日食料を買いに行ったのに、買う量が少なかったんですね。」

「そうそう、腐らない食べ物は船で食べて、今日は港近くで宿を取ろうと思ってる。まあ、とにかく今日は町の中での移動だから、気楽にね。」

「わかりました。」

「それに、この後はしばらく船の上での生活だ。暇つぶしできるものや、何か見たいものを見つけたら、少し寄り道してもいいから、声をかけてね。」

「ありがとうございます。シェシェも、何か欲しいものがあったら言ってね。」

『ありがとう。なら、マリーに私の知ってる精霊のこと教えるから、紙とペンを用意してほしい。』

「おっ、それはいい考えだ。せっかくだから船の上では座学をしようか。」

「はい!じゃあ、あっ、あそこの文房具店に入りましょう。」

初めての船。しかも、精霊についての勉強会付き!私にとっては嬉しいことだらけの旅の始まりだ。思わずスキップをしそうになりながら、店の中に入った。

「いらっしゃいませ。」

店主に声を掛けられる。そう言えば、私って、食べ物買う以外でお店に入ったことがない。
目の前には、綺麗なガラスのペンや、いろんな色の紙が並んでいた。

「先生、これなんですか。紙にきれいな模様がついてます。」

「これは、便箋だよ。手紙を書く専用の紙さ。こんなに細かく、しかも金色の柄なんて、珍しいね。」

「手紙を書くための紙があるんですね。こっちの同じ柄のこれは何ですか?」

「それは封筒、今の便箋を入れて送るんだよ。」

「手紙を書いたことは何度かありますが、ひもで縛って出してたので、こんなものがあるなんて知りませんでした。」

「ここは、トリア、この国と他の国をつなぐ、いわば出入口です。いろんなものがそろっていますよ。特にうちは文房具に特化して仕入れ、販売を行っているので、雑貨屋では見ないようなものも取り扱っています。お探しのものがあればおっしゃってください。」

そう言って、さっきまでカウンターにいたお店の人が、声をかけてきた。

「じゃあ、丈夫な紙が欲しいんだけど。旅をしてるから、破れにくいのだとありがたい。」

「それでしたら、こちらの紙はいかがですか。色もさまざまあります。特に染色などしていないものでしたら、このくらいのお値段です。」

「どれどれ。」

先生の注文に合わせて出された紙を見る。なんか少し分厚い。けど、いいのかどうかわからない。そう思いながら、いくつか他の色も見る。やっぱりわからない。
私が紙を見ている間に、先生はお店の人に他の紙も出してもらっていた。
見てもよくわからないので、私は少し離れてまたほかの商品を見始めた。

『マリー、これマリーの目の色にそっくりじゃない?』

『本当だ、そっくり。』

「どれ?これ?」

そう言って二人が見ている、色水の入った小瓶を見る。
やや赤味がかった茶色っぽい色。二人には、私の目はこんな色に見えてるのか。自分の目の色なんてそんなにしっかり見たことなかったから、よくわからない。

「これって、インク?でも黒じゃないしな。」

『これもインクよ。インクにもいろんな色があるのよ。』

「へぇぇ。本当、歩けば歩くほど、知らないものに出会えるよ。」

旅に出て、もうすぐ三か月。改めて自分が本当に何にも知らないんだと感じた。

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