踊り子の魔女 旅支度 その五

「日も沈み始めてるから、そろそろ帰るね。」

「暗くなってからじゃ危ないもんね。」

「今日は、本当にありがとう。」

「また来てね。旅に出るまでの間、いっぱい遊ぼうね!」

「もちろん。じゃあね。」

「気をつけて。」

私はいつもより多く手を振って、いつもより多く振り返る。何度振り返っても、ネアはずっと手を振ってくれていた。


家に着くと、突然話しかけられた。

「おかえり。」

「え、た、ただいま。って、シェシェ?」

「うん。明日も来るって言ったじゃん。」

「わかってる。でも、家に入る前に声をかけられてびっくりしたぁ。」

「それはごめん。」

「ううん、大丈夫。私こそ、いつもより遅くなってごめん。踊ろっか。」

「うん!」

相変わらず、踊ることに関しては声色が良くなる。
私達は裏庭に移動した。そういえば、最近なんとなくシェシェの存在を、なんとなく肌で感じる気がする。確かに見えていないのに、そこにいることがはっきりと感じられた。
シェシェの存在を感じられるようになったのに、もうすぐお別れだと思うと寂しくなる。

「じゃあ、始めよ!」

「それじゃあいくよ。せーの。」

いつものように掛け声をかけ、私達は踊り始める。
前よりも風を感じるし、前よりもシェシェを感じる。呼吸や、リズムが合ってきている。
踊っているおかげで、涙は出ない。寂しさも、悲しさも和らぐ。

日が沈みそうになり、私達は踊りを終わらせた。

「それじゃあ、帰るね。また明日ね。」

そう言ってシェシェが帰ろうとするのを、私は急いで止めた。

「ごめんシェシェ。シェシェにとっても大事な話があるの。だから聞いてほしいの。」

「うん。別にいいよ。なに?」

「実は私ね。旅に出ることにしたの。今すぐじゃなくて、来年のナギ頃なんだけどね。......だから、来年にはお別れになる。」

「そっか。」

「せっかく仲良くなれたと思ったのに、こんなにすぐにお別れになるなんて。ごめんね。」

「一人で行くの。」

「うん。精霊のこととか、世界のこともっと知りたいんだ。」

「一人がいいの?」

「そういうわけではないけど。だからって、一緒に行く人がいないからね。」

「そう。私も一緒に行く。」

「......え?なんて?」

「一緒に行きたい。」

「え、でも、え??なんで?ここにいなくていいの?それに、家族とかさ、いるでしょ?」

「まあ、生みの親はいるけど、別に私も成体だし。何しても大丈夫だよ。」

「そういうことじゃなくて、その、親御さんは心配するでしょ。こんないきなり決めたら。」

「それはない。そもそも何年も会ってないし。」

「それって、どういう。」

「さっきも言ったけど、私は成体で、幼体じゃないから、別に何をしてても問題はないの。多分マリーは、私の親が心配することを心配してるんだと思うけど。精霊って、成熟すると基本個体で存在するの。」

「じゃあ、なんというか、家族で住んだりはないの?」

「別に、してる精霊もいるし、個々で生きている精霊もいる。親は子を愛してるし、嫌ってるわけじゃないけど、個が個であることを他の種族よりは区別してるって感じなの。」

「なるほどね。なんとなく理解できた。で、本当にくるの?いくら家族と住んでないとはいえ、この場所から離れるのは寂しくないの?」

「全然。そもそも生まれ故郷はここじゃないから。」

「え、ここじゃないの?」

「そう。なんとなくいたら、偶然マリーに出会えた。だからそういう意味では、ここは意味のある場所かもしれない。」

「そっか。じゃあ、何度も聞くけど。本当に一緒に来るんだね。私、そんなにしっかりしてないし、寝てるとき寝言いうし、迷惑かけることもたくさんあるよ?本当にいいんだね?」

「いいよ。そんなたかだか10数年しか生きてない人間に憤るほど、狭量じゃないから。」

「う、うん。ありがとう、でいいのか?」

「じゃあ、とりあえず明日も来るから。じゃあね。」

「え、あ、気をつけてね。」

そういうとシェシェは、あっさりと帰ってしまった。なんだかよくわからないまま、シェシェも一緒に旅に出ることになってしまったけど、今は気持ちが追いつかない。
私は、ふわふわとしたまま、とりあえず家の中に入った。



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